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最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)480号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人橘川光子の上告理由第一点について。

所論は、まず、原判決の認定が前後矛盾すると主張するが、原判文を精読すれば明らかなとおり、原判決は挙示の証拠関係により、本件建物は昭和一三年五月一九日成立の裁判上の和解によつて石岡要蔵から所論〇左エ門に賃貸されることになつたものであるが、右建物には〇左エ門の内縁の妻〇〇たかが既にその父〇蔵の時代から長年に亘り居住して同女の営業名義で旅人宿を営み、父〇蔵が死亡し〇左エ門を内縁の夫として迎え入れた後も、同様同女名義の右営業をつづけ、かつ前記石岡に対する右建物の賃料の支払いも同女によつてなされてきたなど原判示の経緯を認定したうえ賃貸人石岡としては〇左エ門の死亡(昭和一九年一一月九日)後は同女に本件建物を賃貸し、これを同女に売り渡すまでの間その賃料の支払を同女から受けてきたことを認定判示し、反面、挙示の証拠ならびにそれによつて認定した判示事実関係から、所論〇三郎においてその死亡(昭和二八年一一月二五日)当時本件建物につき賃借権を有し、かつ、上告人らにおいて右〇三郎の死亡後右建物につき賃借権を取得し現在に及んでいるものと認めなければならないものではなく、他にこれを認めるべき証拠はない旨判示している。

原判文中、前叙認定の事実関係から、〇左エ門の死亡により即時同人の内縁の妻〇〇たかが〇左エ門の有していた前記石岡に対する本件建物についての賃借権を承継したものと認めるのを相当とする旨判示している部分の措辞は、妥当を欠くきらいがないでもないが、該部分の判示は、次いで記載されている「その後において本件建物に居住し、かつ、選定家督相続人であるとして〇左エ門の家督相続をした〇三郎は、仮りに右相続が適法であつたとしても、その一事によつて、当然に前記賃借権を承継したものとなすことはできない云々」の前提として掲げられているところであつて、原判文を前後通読すれば、前叙認定と異る趣旨をここに判示しているものとは見られず、従つて、所論のようにこの点について原審認定の矛盾をいうのは当らない。

また、原判決は、前示のごとく、石岡は、〇左エ門の死後たかに本件建物を賃貸したものであり、仮りに〇三郎が相続により〇左エ門の賃借権を承継したとしても、昭和二二年九月六日成立の所論調停において〇三郎はたかに対し本件建物の賃借権を放棄したから、たかのみが適法な賃借権者であると認定判示しており、右原審の認定判断は首肯できるところであつて、この点の非をいう論旨も採用できない。

なお、所論は、内縁の妻はその夫の死亡と同時に夫の有する賃借権を承継できないことを云為して、原判決の法律解釈適用の誤りをいうが、原判決は、前記のとおり、〇左エ門の死亡後賃貸人石岡において本件建物を〇〇たかに賃貸してきた事実を認定しており、原判文中、〇左エ門の死亡により即時同人の内縁の妻〇〇たかが〇左エ門の有していた石岡に対する本件建物の賃借権を承継したものと認める旨の判示は、前叙のとおりに解すべきである以上、右論旨は、ひつきよう原判決を正解しないことによるものというのほかなく、すでに前提を欠き、採用の余地がない。

同第二点について。

所論は、原判決の採証法則違反、審理不尽をいうが、その実質は、すべて、原審の専権たる証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに尽き、上告理由として採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

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